新年特别企划短篇 BY 木原音濑



本篇为木原老师在2005年新年期间在官方站上限时推出的短文。是早期同人志的翻外篇




石田去宫原家找宫原。房门依然没有锁,钥匙依旧放在邮箱中。无论去几次这个房间都有种被时代所遗忘的奇妙的违合感,就如同他的主人一样,透着古怪异样的气息。打开房门,问着:

“你在吗?”


然而回答自己是却是一个带着圆片眼睛的男人。



“没用的,他好像出去了。那家伙只要一去散步就会在外面晃个半天”


眼前的男人名叫山本,是音乐杂志的撰稿人,一直在为石田所属的乐队编写特集。


石田十年前在E.L.F乐队担当吉他手,而宫原是主唱。他们的音乐无论是在旋律还是歌词上都很引人注目,然而数年过去,那种感染力也在逐渐褪色,加上大概是语言上的代沟,使乐队本身也开始迷失了方向,四位成员在音乐的创作和发展上也产生的瓶颈。在越来越多的关于他们乐队的评价偏向于“不能理解”或是“没听过”时,只有在山本的音乐杂志上,继续声援着他们。如今山本依然关心着已经乐队已解散的他们。宫原也由于乐队解散的事情而一直很消沉,而山本此次来也是因为找到了其他的事务所可以跟他们签约,希望乐队有机会可以卷土重来。


“那么石田君,就拜托你回头和宫原联系一下吧”


山本回去了,本来想要谈新事务所的事,却因为最重要的宫原不在而只能做罢。石田叹了口气也走出了宫原的家。一路上,想了很多……这个从中学时就组建的乐队,最初也没打算把他办得有多正规,然而上高中的时候,却似乎真的想过,以后都靠这把吉他吃饭。然而在现在新人倍出的乐坛,像他们这样的乐队已经没什么卖点了。现实就是这么残酷。已经十年了,他们在一起也有十年了。然而现在的自己,主要的收入来源却是依靠打工,连打工那里的老板都说“你干脆正式在我这里上斑吧”,然而石田却似乎无法放弃自己那身为专业吉他手的可怜又薄弱的自尊。不知不觉,石田走到了宫原经常散步的河边。一直低头思考着事情的石田在看到突然站在自己面前的宫原时吓了一跳。


“你在干吗?” “散步”


“山本桑有话和你说。是关于事务所的事情”


“哦”

“石君,我很认真的考虑过……”


“什么?”


“我想开蛋糕店,已经不想再做音乐了”


“不想做音乐了?”


“我觉得我有才能”


“怎么?要做蛋糕店的大叔?”


“不是。我是指音乐。我做的音乐音律很好,歌词也很棒,但是一直在想,为什么就是不能把自己真正的想法通过音乐传达给大家呢,好奇怪……”


不知宫原的自信是从哪里来的,但是确实,自己也觉得宫原很厉害。然而自己却并没有全身心的信赖于宫原,应该说,是质疑着他的能力,然而已经是多年的交往,即便怀疑,石田也不想承认。 坐在椅子上的宫原仰望着天空。突然开口说


“石君,我们一起逃跑吧”

“这里太混杂了,我们跑到一个远离这些骚扰的安静的地方去吧。去乡下过着自给自足的生活”

“用牛耕地,穿着动物皮做成的衣服,养很多的蚕……”


宫原以无比认真的表情描述着简直是不可能实现的虚幻。明明没可能的事,在宫原的脑中,似乎就是可以变为现实。


“好啊”


虽然这样应合着,然而石田也知道自己并不是认真的。


“啊,你也这么想?”


“嗯”


宫原突然站了起来。


“那我们现在就走吧”


“现在?”


“因为任何时候都可以舍弃那些东西,所以什么时候都可以。现在就走吧” 看着宫原如此认真的表情,石田后悔自己刚才那不负责的迎合式的回答。然而现在已经不可能订正了。计算了一下钱包中的钱,两个人住一间便宜的旅馆的话还是够的,明天店里也休息,如果只是应付一天宫原的任性的话还是没问题的。


“走吗?”


“走吧”


就这样,两人乘上了电车。


“绝对要去个有海的地方。依着山和海,那种地方最好了。”


电车中,宫原抬头看着车箱内张贴的广告。


“浪费纸。我一直都在想,日本人太浪费了。为了宣传却砍伐其他国家的树木。不那样的话又会说,那样就要砍了自己的树,那倒不如直接颁布个“禁止进口”令,这样谁都不会随便砍伐树木了” 宫原就是这样,总是会钻牛脚尖一样地想着一些完全与己无关的事。


“你想太多了。总是这样,不光是我觉得,大家也都这么说呢”


“我才没有”


任性地反驳着。


“宫原,你也累了,不要想那些广告的事了”


“可是……”


一但在意起来就无法平静,宫原的这种不安定精神状态也完全反映在音乐中。把心中的不满和矛盾通过音乐展现出来,有的时候又会选择那种令人难以理解的语言。


原本阴暗的宫原的脸突然一下明亮的起来。


“石君,是海!” 笑着回过头。在混凝土的码头对面看到了海。


“很脏呢”


“没办法,这里是东京湾啊”


“人类果然很坏”


“宫原你不也是人吗”


“是啊,所以我也很坏”


直接得不得了的言语在心中自我诋毁着。总是这样无法控制自己的令思维在同一个地方绕来绕去。然而如此古怪的男人不仅吸引着自己,也同样吸引着那个杂志记者山本。


“逃跑的话,应该去个更漂亮的海边的”


“是啊”


宫原就这样一直盯着那污浊的海。突然开口哼唱着一首不是自己也不是他人的歌,一种不太熟悉的旋律。


“我就算不再做音乐,也不会停止唱歌”


回过头,宫原以认真的表情低喃着。



跳下车的宫原奔向海边,遥望着四周的海景。


“真的,好脏”


的确,远处看还呈现一片橙色的海面,走近后才发现,岸边到处散落着垃圾,海面也带着灰色。


宫原就这样坐在海边,眺望着阴暗的海面。


“……我们差不多该去找个住的地方了”


“不找住处不也挺好”


“诶?”


“我们要过不依靠任何东西的自给自足的生活,所以哪里都不要住也挺好”


“就露宿吧。露宿露宿,反正我们也是男的,而且现在也没那么冷”


六月的天气的确不会冻死人,石田也觉得刚刚吹拂在脸颊的海风有这温暖的感觉。


“我知道了。就算不住宿,也最好找个可以安心睡眠的地方吧”


“哪里都可以”


“如果晚上想去厕所的时候,找不到企不是很困扰吗,所以还是要找个可以克服这种不便的地方啊”


“啊,是啊”


“我觉得公园应该还不错”


“对啊对啊”


“越来越暗了,我们还是趁天黑前找到比较好”


两人离开了海边,开始找寻今晚可以容身的公园。在所找到的公园中,有个三个圆筒叠列在一起的游乐场所,两人就决定今晚在这里露宿。


石田从便利店买回了食物,本以为又会感叹着便利食物乃伟大文明之象征的宫原,现在为了要填补饥饿似乎已经无暇思考这么多了。


吃完便当后,突然下起雨来。雨势越来越大。


“好大的雨”


宫原缩在狭小的空间中,遥望着外面被雨水覆盖的景色。


“很冷呢”


只穿了一件衬衫想当然会冷。然而也同样只穿了一件的石田也没有外借的余力。


“靠过来一点吧。这样会暖和些”


宫原像小猫一样地贴靠过来。


无意识着触摸着他的头发,果然是和女孩的柔软不同,一种坚硬的触感。


宫原回过头,无意中重叠上嘴唇带着一种冰凉的味道。


吻过后,宫原似乎想起什么的低语着。


“中学的时候,还经常和你接吻呢。就是我和隔壁班的西沢恵子交往的时候,我因为不知道要怎么接吻,还和你练习呢”


“是有这回事”


“还有要怎么呼吸的事情。现在虽然知道一般都是用鼻子的,但是那个时候还真是个大问题呢”


说起以前的事,宫原好像一下很开心的样子。好久没有看到这么开心笑着的宫原了。最近因为解散和解约等杂事,已经无暇欢笑了。


石田拉近宫原,再吻了一次。先将舌头缠绕进来的是宫原。完全是玩笑一样的行为,然而只有背脊上那莫名颤动却至今都能清晰的忆起。


“危险了呢,石君”


感到了宫原身体上的变化,怀抱的身体股间部分变硬了。


“因为我现在正在禁欲啦”


虽然这么说,但这里的寒冷却无法阻止接吻所产生的快感。宫原应该也不讨厌这样吧。于是石田更加积极地贪婪侵略着宫原的口腔。


在吻中交换着彼此的气息。宫原把溢出的唾液在自己衬衫的肩口擦干。目光相遇时,宫原笑了。


“我们这样,好像同性恋呢”


像是被这样的表情所吸引似的,再此吻了上去。不可抑制地紧抱住宫原的头。这蓬乱的头发,这整天想着一些意义不明的事情的头脑,也许就是在哪里强烈地吸引着大家吧。


“我……不行了”


宫原想要脱离石田的拥抱,然而不想放开的石田再度加紧的力道。


“让我做吧”


中学时候,两人就不知道用手为对方做了多少次。有那时的经验,石田毫无犹豫地拉开了宫原牛仔裤的拉链。


“不要,石君”


然后当手指滑进内裤紧紧握住时,宫原就什么都没有再说了。只是给予很小的刺激,就好像中学生那样轻易地勃起了。宫原在石田的手中细细地颤抖着,终于精力饱满地释放了出来。随后一股腥臭的味道弥漫在这狭小的空间中。宫原慌忙地将自己的分身收进内裤中。


“宫原”


“真的不打算做了?”


“什么呀”


“唱歌的事”


“我会一直唱下去的”


“不是那个意思。我是指开演唱会、出唱片的事”


宫原没有回应。


“你要逃避吗?”


“没谁要逃避”


“撒手不干就是逃避”


“我没说撒手不干吧!?”


宫原怒吼着。


“那你明知山本先生来了却外出。尽管在周围人眼里觉得很奇怪,但是那个人是真的很为在意你啊。也只有那个人,可以对你的话做出回应。当那个人要来说事务所的事情的时候,你却逃避了。对于一个人的诚意,你不是应该好好地回应一下吗”


宫原烦躁地搔着头,把身体缩成了一团。


“我没想要责怪你”


“说谎”


宫原的肩膀微微地颤抖着。


“我也许没有才能”


“宫原……”


“我也许,真是个傻瓜”


“才没有这种事”


“但是,连我自己都无法相信自己。我也想要相信着自己是拥有才能的,虽然也许早就已经没有了。我也许已经到极限了。我不想这么想。我不知道……我连自己的事都不知道……”


宫原内心的恐惧和纠葛终于传达了出来。一直自信满满地自我欺骗着的宫原。石田很理解现在这个说着无法相信自己的宫原。从此以后,乐队卷土重来,他们就会一生陪伴彼此左右,共同前进了。


“没关系”


紧紧抱住那颤动的身体


“TOMI和NARU,还有我,都会和宫原在一起的。会一直在一起。就算已经变得全无价值,但是谁都不会后悔的。”


“我……是为我自己而唱,不是为了你们哦”


“谁也不在乎那种事啦”


“我也讨厌任性的自己,虽然讨厌,可是我也不想改变”


“好的,就保持这样吧”


那之后,宫原虽然又嘟嘟囔囔地说了很多,但很快就紧紧地抱住石田睡着了。


就这样单手拥住宫原。石田从口袋里取出香烟。虽然不知道从此以后他们的乐队会变成什么样子,然而只有宫原会一直留在自己身边吧,心中不禁这样茫然地想着……


结婚也好,独身也好,上了年纪也好,就算不再唱歌,这个倔强任性的宫原也会一直在自己身边吧。莫名地思考着这些奇怪的事的自己似乎也有些奇怪呢,然而石田只是微微地笑了。



—完—


附上原文,懂日文的朋友可以对比一下翻译哦^^




モルタルの二階建てのアパートは、階段がきしんで仕方がなかった。宮原が一人暮らし


を始める時に、何を基準に部屋を選んだのか石田は知らないが(聞いたところで宮原がま


ともな返事を返すとも思えなかったが…)どうせろくな理由もないだろう。


ノックなんてするような、上等な造りのドアじゃない。ノブに手をかけてひくと、簡単


に扉は開いた。


「みやじ、いるのか」


石田は宮原を名前を呼ぶ時に、中学生の頃からのあだ名で『みやじ』と呼ぶ。こればか


りはバンドを組んで十年以上経ってからも変わらない。


名前を呼んでも部屋の中から、返事はない。いつ来ても宮原の部屋は時代を置き忘れた


ような奇妙な匂いがする。正面の中央が微妙に歪んだ棚には鉄製の茶瓶がずらりと並び、


古い浮世絵が無造作に壁に貼られている。そして夏なのに、未だ部屋の隅を占めている火


鉢。


石田は扉を閉め、ポストの中を探った。この部屋の主は、鍵をポストの中に入れるのは


忘れなくても、部屋に鍵をかけることは簡単に忘れてしまえるような男だ。扉にきちんと


鍵をかけて、もとあったポストの中に置いてから、足早に階段を降りた。


「どう、いる」


「駄目ですよ。出掛けてるみたいです。あいつ散歩に出掛けたら半日でもぶらぶらしてる


ような奴だから…」


丸眼鏡の男は、うつむき加減にため息をついた。


「話したかったのになあ」


「宮原が帰ってきたら、山本さんの方に連絡とるように言いますよ」


「うん、そうしてくれる。俺なんかが出しゃばったりしてこじれると嫌なんだけどさ、何


かこう話が進んでないだろ。心配なんだよ」


「そうですね…」


「宮原くん、どう。最近さ」


石田は少し首を傾げた。


「どうって…いつもと変わりませんよ。けどやっぱり事務所の解散っていうのはきつかっ


たみたいですね。やっぱし暗いですから」


「そうだよねえ。だから俺としては少しでも早く別の事務所なり契約して、活動を再開し


て欲しいんだけど」


男は唇を尖らせた。石田と付き合いの古い山本というこの男は音楽雑誌のライターだ。


いつも石田の所属するバンドの特集を組んでくれる。


石田は十年前にE.L.Fというバンドのギターでデビューした。デビュー


当時は、ヴォーカルの宮原浩次の強烈な存在感と、ストレートなメロディ、歌詞で注目さ


れていたが、それも年月を追うごとに色あせてきた感じがあった。


そんな言い方をすると語弊があるもしれない。バンド自体がその方向性を見失ったと言


う方が正しいのだろう。メンバーの四人が悩んで、迷ってそうして作り上げた作品は、結


局は自分たちの自己満足でしかなく、外へ広がりをもつどころか、自分たちの輪の中だけ


で理解できないような形になってしまった。それが結局、セールスに影響し、自分たちの


出したアルバムやシングルの売上は燦々たるものだった。


不思議なのは、これだけ底を這うようなセールス、理解できない、聞けないという評価


をうけながら、山本の音楽雑誌だけは自分たちを取り上げつづけてくれたことだった。


最初からE.L.Fのファンだと宣言して、レコード会社の契約を切られ、


事務所まで解散してしまった自分たちを、未だに心配してくれている。


「じゃ石田君、連絡頼むね」


山本は帰っていった。今日も、新しい事務所の話をもってきてくれていたのだが、肝心


の宮原がいなくて話にならなかった。


石田はため息をついて歩きだした。事務所にも見放された自分たちが、これから先にど


うなるかの不安はある。中学生の時の友人同志で組んだバンド。最初はこんなに本格的に


なるとは思わなかったが、高校生の頃から、もしかしたらギターで食べていくことができ


るかもしれないと思うようになった。


デビューするまではよかったけれどその先なんて考えてなかった。待望の新人のように


扱われ、最初の頃は自分でも少しぐらい売れるんじゃないかと思ったけれど、結果は酷い


ものだった。


もう十年だ。一緒にやりはじめてもうそろそろ十年になる。自分を誤魔化すことが、も


うできなくなっているんだろうと石田は思う。バンドの実質的な収入だけではとても食べ


てけずに、石田はバイトをして日々の糧をかせいでいた。近頃はバンドよりもそちらの方


が主な収入になっている。


バイト先の主人に、言われたことがある。


「バイトなんて言わずにさあ、うちに就職しちゃいなよ、石田君」


石田は自分がプロのギタリストなんだと、細かなプライドから胸を張って言うことがで


きなかった。


E.L.Fは四人で一つのバンドだけど、確かに四人で一つなのだけど、自分が抜けて


も成り立っていけるかもしれないと思うことがある。それはドラムのトミこと


富広や、ベースのナルこと高槻も思うところだろう。だけど宮原浩次のスペア、代わりは


いないのだ。


探すつもりもなかったが、知らずに石田の足は宮原が好んで散歩する河川敷に向かって


いた。宮原は一人で、時々女と一緒に果てのない散歩をする。石田も突き合わされたこと


があるが、宮原の散歩は散歩の名を借りた耐久レースのようで、一度でギブアップした。


まるで異国に降り立った兵士のように、無言のまま宮原は延々と歩き続ける。そうして


立ち止まっては訳のわからないことを聞いてくる。いつものことだ。


「石君?」


考え事をしながら歩いていた石田は、不意に目の前に現れた宮原に驚いた。考え事をし


ていて、全く前を見ていなかった。何年も前のジーンズにTシャツ、いつもの宮原の恰好


で、河川敷沿いにある石を置いただけのおざなりなベンチに腰掛けている。


「何してたんだ」


宮原は肩まである髪の毛を、右手でぐしゃぐしゃとかき回した。


「散歩」


座っていてそれはないだろうと思ったけれど、宮原が散歩と答える以上、それは散歩な


んだろう。


「山本さんがさ…」


無関心な目が、山本の名前に少しだけ興味を示す。


「お前と話したがってたよ。事務所のことで相談したいことがあるってさ」


「ふうん」


さっきは興味深そうな目をしていたのに、次の瞬間、宮原は明後日の方向を向いていた。


また髪を掻きむしる。髪だけみたら駅前のホームレスと大差はない。


「石君、俺真面目に考えたんだけどさ…」


「なに」


「俺さ、真面目に駄菓子屋やろうと思ってんだよ。もう音楽なんてやめてさ」


またはじまった。石田は小さく息をついて宮原の隣に腰を下ろした。


「音楽やめるの?」


「俺って才能あると思うんだよ」


「何の、駄菓子屋のおやじのか」


「違う。音楽。俺の作る音楽ってメロディいいんだよ。歌詞もいいんだよ。でもどうし


てそれがみんなに伝わらないのかってずっと思ってたんだよ。おかしいなって…」


「そうだよな」


相槌を打ちはするけれど、石田は疑問を抱かずにはいられなかった。宮原の自信がどこ


から出てくるのか分からないからだ。確かに宮原はすごいと思う。ここまでエレファント


カシマシを引っ張ってきたのは確かに宮原の力だった。


自分は宮原を、宮原の才能を信じられないでいるんだろうか。


人に話をしたら、十年も一緒にいてまだ気がつかなかったのかと笑われるかもしれない。だけど疑いはしても、石田はそれを認めたくなかった。


「駄菓子屋やるってのも、よく考えたら面倒だよなあ。金もかかるしさあ」


宮原は空を仰いだ。道行く人は平日の昼間にのんびり川端に座っている男二人をどんな


目で見ているんだろう。


「石君さあ…」


宮原が振り返る。


「俺と逃げようぜ」


石田が首を傾げると、宮原は眉間に皺を寄せた。


「逃げるんだよ。ここにいたら色々とうるさいからさ。そんなことと無縁の場所へにげよ


うぜ。戸籍も墓もいらないようなド田舎に行って、自給自足の生活するんだ」


「自給自足か」


「そっ。牛で田んぼとか畑とか耕してさあ、服とか動物の皮で作るの。蚕とか飼ったりし


てさあ…でも俺、どうやってそれで布つくるか知らないけど、まあどうにかなるだろうし


さ」


まるで絵空事だ。宮原は時々真面目な顔でとんでもないことをいう。そんなことができ


る筈がないのに、宮原の中ではまことしやかな現実になる。


「いいよね、それ」


相槌をうっても、真面目にとりあってない自分を知っている。


「なっ、なあ。そう思う」


「ああ」


宮原は不意に立ち上がった。


「今から行こうぜ」


「今から?」


「どうせ何もかも捨てるんだから、いつから


でもいいだろ。今からいこうぜ」


宮原も顔は真剣だった。相槌をうった自分を石田はすぐさま後悔した。いい加減だった


と訂正することもできず、自分のポケットの中にある財布の残高を計算した。


男二人が安ホテルに一泊するぐらいの余裕はある。明日は店の休業日。一日ぐらい宮原


のきまぐれに付き合っても大丈夫だ。


「行こうか」


「行くぜ」


宮原はうれしそうだった。何がそんなにうれしいのかわからない。だけど石田も正直逃


げたいような気持ちがどこかにあった。


宮原は突然歩きだす。石田は慌てて追いかけた。


「どこ行くんだよ」


「どこって、逃げるんだろう」


「歩いて行くつもりかよ。そんなことしてたら時間ばかりかかるぞ。電車でもバスでも使


えばいいだろ」


宮原は首を傾げた。


「電車って言うのが…俺、何か嫌なんだよなあ。やっぱ人間便利になり過ぎちゃいけない


って気がするからさ」


「でも、歩いてじゃ遠くへ行けないぞ」


宮原はきょとんとした顔をした。


「まあ、そうだな。今日ぐらいはいいか」


妥協の気配。急に歩みの遅くなった宮原の隣で、石田もゆっくりと歩きはじめた。






近くの電車の駅で、宮原は急に海が見たいと言いだした。


「絶対に海だよ。海と山の側でさあ。そんな所がいいよ」


駅名パネルを見上げながら、石田は首を傾げた。どうすれば海沿いの電車に乗り継ぎで


きるかわからなったからだ。


「もう適当でいいからさ」


道順を組み立てるまでに宮原が先に歩きだしてしまい、石田は慌ててその後を追いかけ


た。宮原は近距離の切符を買うと、一番最初にホームに滑り込んできた電車に何のためら


いもなく飛び乗った。


昼過ぎの時間帯は人も少なく、椅子にもぽつぽつぐらいにしか人はいない。石田は椅子


に座ったが、宮原は石田の隣、細い鉄柱にもたれかかるようにして立ち、決して座ろうと


はしなかった。


「石君さあ…」


それまで思い詰めたような顔で黙り込んでいた宮原が、不意に話しかけてきた。


「アレさ」


宮原がアレ、と視線をやったのは電車の中にある車内広告だった。


「紙の無駄だよあな。俺いっつも思うんだけ


どさあ、日本人って無駄が多いんだよなあ。


何にしても宣伝、宣伝でさ。あの紙つくるのに外国の木を伐採してんだよ。それなら自分


のトコの木を切れって言うんだ。いっそのこと輸入禁止令しけばいいんだ。そしたらもう


誰も無駄に木切ったりしないと思うんだよ」


「そんなこと考えてたのか」


「ん、まあね」


「宮原、座らないか」


「ん、いいよ。俺。立ってるから」


「立ってると話しづらいからさ、座ってくれないかな」


「ん…、そうかあ」


少し迷うふりを見せたけれど、宮原は椅子にこしかけた。椅子に座っても、まるで落ち


着きのない子供みたいにそわそわしている。暇があればぼさぼさののび過ぎた髪を引っ張


り、まるで貧乏ゆすりをするように膝を揺する。


「宮原はさ」


「ん」


「考えすぎなんだよ。いっつも。何してもさ。これは俺だけじゃなくて、皆が言ってる


ことだけどね」


「そんなことねえよ」


拗ねたような素振りで、反論する。


「そうだよ。だから宮原はいつも疲れてるんだ。あんな広告なんて放っておけばいいんだ


よ」


「でもなあ…」


気になりだしたら、どつぼにはまるまで落ち込む。宮原の精神状態は、そのまま作る音


楽に反映されてきた。不安定な心の状態もそのままに。


心の葛藤がそのまま歌になる。時々理解できないような言葉や声を選んだりする。


どこか暗い表情の宮原の顔が、ぱあっと明るくなった。


「石君、海だ」


笑顔につられて振り返る。そこにはコンクリートの岸壁に面した海が見えた。


「何か汚ねえよなあ」


「仕方ないよ。東京湾だし」


「やっぱ人間が悪いんだ」


「宮原だって人間じゃないか」


「そっ、だから俺も悪いんだよ」


たまらなくストレートで、自分の中でこわれかけている宮原。自分で自分の状態を把握


できなくていつも同じ場所をぐるぐる回っている。エキセントリックな男にひかれている


のはなにも自分だけじゃない。雑誌記者の山本も一緒だ。


「逃げるんならさ、もっと綺麗な海がいいよな」


「そうだよなあ」


宮原も海を見ている。汚い海をずっと見つづけている。不意に何か口ずさむ。今までの


自分の歌でも、他人の歌でもない。あまり馴染みのないメロディーラインだった。


「俺さ、音楽やめても歌うのは止めないよ」


振り返って、宮原は真面目な顔で呟いた。




Next

最終的に二人が降り立ったのは、夕方に近い時刻だった。海に沈みかけた夕日を見なが


ら、宮原が勝手に電車を降りた。石田もそれを追いかける。


あまり人のいない、寂しい駅だった。宮原は迷うことなく海へ向かって歩いていく。ほ


どなく海岸に出たが、ぐるりと浜辺を見渡した宮原は、


「ほんと、汚ったねえよなあ」


ぼそりと呟く。確かに遠くから見たらオレンジ色の海面しか見えなかったけれど、近く


で見る浜辺にはあちらこちらでゴミが散乱し、海面は灰色を帯びていた。


顔が暗かったから、宮原はまたこの浜辺の汚さについて考えてるんだろう。そうしてい


きつく結論がどうなるかまでは、石田には分からないけれど。


宮原は浜辺に腰を下ろして、暗くなる水面をじっと眺めている。


「みやじ」


名前を呼んでも返事をしない。ただひたすらに暗い海を見つめている。石田は宮原の視


線を振り向かせる為に、乱暴に肩を揺さぶった。


「どうするんだ。ここにもう少しいるのか」


「あっ…おれ…」


「そろそろ泊まる所を探さなきゃな」


宮原がきょとんとした顔をして、そして次には不愉快そうな表情になった。


「別に泊まらなくてもいいじゃないか」


「え…」


躊躇いを見せた石田に、宮原は噛みつくような喋り方をした。


「俺たちは何にも頼らないで自給自足の生活をしていくんだから、今更どこかに泊まらな


くてもいいだろう」


確かに、確かに最初はそんなことを言っていたけれど、石田はまさか宮原が初日からそ


んなヘビイなことを言いだすとは思わず、戸惑った。


「野宿でいいじゃんか。野宿、野宿。男なんだからさ。今だったらそんなに寒くもないだ


ろが」


確かに六月というこの季節、凍死することはないだろうが、石田はさっきから顔に吹き


つけてくる海からの生暖かい風が気になっていた。


天気が崩れても、雨が振りだしてもいいんだろうか。けれどこんな風に意地を張り出し


た宮原にはもう誰も太刀打ちできない。


「分かったよ。泊まらなくてもいいけどそれなりに安心して眠れる場所を探しておいた方


がいいんじゃないだろうか」


「どこでもいいだろ」


「まあ借りにさ、夜中にトイレに行きたいとか思った時に、なかったら困るだろう。それ


ぐらいの不便は克服しといた方がいいと思うんだ」


「まあ、そうだな」


「公園がいいんじゃないかと思うけど」


宮原は考える風に首を傾げた。


「そうだな、そうだよな」


「暗くなるしさ、そうなる前に探しておいた方がいいと思うんだ」


「まあな」


「俺探してくるけど、みやじはどうする?」


「あ、俺も行く」


海から離れて、今晩のねぐらになりそうな公園を探す。別に公園でなくても、駅前とか


でもいい。


「何か公園で寝るって、浮浪者みたいだな」


宮原の言いぐさに、石田は少し笑った。確かに自分達のしていることは浮浪者と大差は


ないだろう。


「同じようなものだろ。仕事は切れて、ぶらぶらしてるんだから」


何がおかしいのか、宮原はニッと笑った。


「俺、前から思ってたんだけど、浮浪者ってあるべき人の姿だよな」


また変なことを言いはじめた。


「何もなさず、関わらずに生活していくだろ。それは一種凄いことだと思うんだよ」


「確かにね」


石田は立ち止まって振り返った。


「みやじの言うように、考えるみたいに世間に何の迷惑もかけずに生きていくのはいいか


もしれないけど、自分はそれで満足しているんだと思うか?」


「そんなの自業自得だろ。俺が言いたいのはその姿勢だよ」


訳がわからなくなる。何となくはわかるけど、石田は宮原の訳の分からない世界観を上


手く表に、宮原すらまとめられない世界をどうにか言葉の形にしてやることができない。


石田も口がいい方じゃない。必要最小限しか言葉は喋らない。宮原はきっと考え過ぎて


全部を全部言葉にすることができない。そうして微妙にずれていく価値観。


「みやじ、あそこに公園があるよ。あそこに行ってみようか」


交わらない気持ちを誤魔化すように、石田は少し先に見える公園を指さした。宮原はど


こか釈然としない顔をしていたけれど、それ以上は聞いてこなかった。掘り下げた話を石


森が苦手だと知っていたからなのかもしれない。黙ってついてきた。


公園は思いのほか大きいものだった。子供用の遊び道具も沢山あった。その中で、大き


な円筒を横倒しにしてそれを三つ重ねたような遊び場があり、二人はそこを今晩のねぐら


に決めた。


丸いドラム缶を横にしたような空間は、大人二人が足を折り、並んで何とか座れるぐら


いの大きさだ。でもその気になれば長さはあるから横になることもできる。


宮原をそこへ残して、石田はコンビニで食べられそうなものを買った。石田が買ってき


たコンビニ弁当を、腹も空いていたのか宮原は勢い良くがっついていた。


強いて言えば今宮原が食べているようなコンビニの弁当だって、偉大なる文明の象徴み


たいに思えるが、食欲に捕らわれた宮原はそこまで考えを思いめぐらせる余裕はないよう


だった。


弁当を食べている間に、危惧していたようにぽつぽつと音がしはじめた。宮原も雨の気


配に食べる手を止める。最初はぽつぽつだった雨の勢いが、そのうちにザーザーと横殴り


の強さに変わった。


「すごい雨だな」


宮原が狭い中を這い、雨の幕に覆われた外の景色を眺めている。石田はこのまま宮原が


外に出ていってしまわないかと心配になったが、宮原はそのうち石田の隣まで引き返して


きた。


「何か寒いよなあ」


Tシャツ一枚では寒くもなるだろう。けれど石田もシャツ一枚。貸せるような余裕はな


い。


「もっとくっつけよ。そうしたらマシだろ」


宮原が猫みたいに隣にぴったりとくっついてくる。おとなしい宮原は何だかおかしい。


時々宮原は髪の毛をかいた。長く伸ばしているからといって宮原は髪の手入れをするわけ


じゃない。のばしっぱなして、毎朝櫛をいれているかどうかもあやしい。


一時期、江戸時代に傾倒した頃は、本気で丁髷にすると言いだすのではないかと思った


けれど、宮原にもそれなりの自制心はあったらしい。


何気なく触れた。ぼさぼさの髪の毛はやっぱり女の子とは違って柔らかい手触りではな


いし、どちらかといえば硬い。


宮原が振り返る。衝動的に唇を重ねた。冷たくてカサカサした唇。宮原も顔を背けたり


しなかった。


「そういやさあ…」


キスの後で、宮原は思い出したように呟いた。


「中学の頃に、よくお前とキスしたよな。ほら俺が隣のクラスの西沢?#123;子と付き合ってた


時にさ。俺がキスの仕方がわからないからっておまえとよく練習してたよなあ」


「そんなこともあったな」


「どうやって息したらいいかなとかさ。今なら普通に鼻で息すりゃいいってわかるけど、


その頃はそれ淮髥栴}でさ」


昔のことを話す宮原は楽しそうだった。こんな楽しそうな宮原をみるのは久しぶりだっ


た。最近は事務所の解散や契約切れとか雑多なことが多くて、笑うような余裕なんてなか


った。


石田は宮原に頭を引き寄せて、もう一度キスした。舌を絡めるようなキスを最初にした


のも宮原とだった。完全な遊びだったけど、何となく背中がゾクゾクしたのだけは今でも


はっきりと覚えている。


「ヤバイよ、石君」


宮原のヤバイは体の変化で分かる。抱き寄せた股間のあたりが硬い。


「今、禁欲中だからさあ」


言われても、この場所は寒いし、キスは気持ちがいいから止めたくない。宮原も嫌な感


じはしないのだろう。石田以上に積極的に口腔を貪ってくる。


キスの合間の息継ぎ。宮原はこぼれ落ちそうな唾液を自分のTシャツの肩口にこすりつ


けた。目があうと、宮原はニッと笑った。


「何か俺たち、ホモみたいだな」


その顔に誘われるように、また唇を貪る。たまらなくなって頭を掻き抱いた。このぐし


ゃぐしゃの髪の、わけわからないことばかり言う頭のどこにみんなこんなにひかれてるん


だろう。


「俺、駄目」


宮原が体を放そうとして、それが嫌で石田は抱く腕に力をこめた。


「してやるから」


中学生の頃に、マスのかきあいをしたのは数知れず。その時の?#123;子で石田は躊躇うこと


なく宮原のジーンズのファスナーを開けた。


「いいって、石君」


だけどパンツの中に指を滑り込ませて握りしめた時にはもう何も言わなくなっていた。


少しの刺激で、まるで中高生のガキみたいに勃たせている。


「本当に最近してなかたんだな」


「だって、別れたからさ」


宮原が付き合っている女と別れたのは、ほんの一ヵ月ほど前の話だった。腕の中で宮原


が細かく震えたかと思うと、勢いよく放出した。同時に体が弛緩する。生臭い匂いが、辺


りにたちこめる。宮原は慌てて自分のものをパンツの中にしまっていた。


これだけ近くにいる。石田は宮原の首筋に顔を埋めた。


「みやじさあ…」


宮原から返事はない。


「もう辞めるつもりなのか」


「何をだよ」


「歌うこと」


返事があるまでに間があった。


「俺はずっと、一生歌うよ」


「そうじゃなくて、コンサートしたりとかCDだしたりとか、そういう意味でさ」


返事はない。


「契約切れてさ、それをいいことに辞めようとか思ってないか」


「それはお前も同じだろう」


宮原の口?#123;には、石田を非難するような響きがあった。


「逃げるのか」


石田の言葉に、宮原が振り返った。


「誰も逃げてない」


「辞めるっていうのは、そういうことだろ」


「辞めるなんて言ってねえだろ」


怒ったような顔だった。


「じゃあどうして山本さんが来るってわかってて出掛けたりしたんだよ。あの人は本当に


お前に惚れてるよ。周りが見てておかしいぐらいにさあ。あの人だけだよ。お前の言葉に


ちゃんと答えてくれるのは。その人が事務所の話とかもってきてくれたのに逃げただろ。


人の誠意には、お前もちゃんと返事をするべきじゃないのか」


宮原が頭をかきむしりはじめた。そうして背中を丸めた。


「責めてる訳じゃないんだ」


「嘘つけっ」


宮原は小さくなったまま、肩を震わせた。


「俺、才能ないかもしれない」


「宮原」


「俺、本当の馬鹿かもしれない」


「そんなことないよ」


「でも俺、まだ自分を信じていたいんだ。まだ自分には才能があるって、思っていたいん


だ。もうないかもしれないのに。俺って所詮ここが限界なのかもしれないけど、そんなの


信じたくないんだ。わからないんだよ。自分のことがわからない」


宮原の葛藤が、怖いぐらい伝わってくる。いつも自信満々で、いつも裏切られてきた宮


原。そんな宮原が自分を信じられなくなったと言いだしても、石田にはよくわかる。


これからまた活動を再開するということはそんなストレスと一生共に歩くということに


なる。


「大丈夫だよ」


震える体を抱きしめた。


「トミもナルちゃん俺も、みやじと一緒にいるから。一緒にやるから。駄目になったって


誰も後悔したりしないさ」


雨の音だけが聞こえる。宮原は腕の中でじっとしていた。


「自給自足の生活はさ、もっと先でもいいだろ。今はくだらないと思ってても、何か…何


とかなるかもしれないからさ」


宮原がぽつんと呟いた。


「俺はさ、俺のために歌ってるんだ。お前らの為には歌えねえよ」


「誰も気にしてないよ、そんなこと」


「俺は、自分勝手だと思う自分が嫌だ。こんな自分が嫌だけど、変わるのも嫌だ」


「いいよ、そのままで」


その後も、宮原はぶつぶつ何か呟いていたけれど、石田にしがみつくようにして眠って


しまった。


片手で宮原を抱いたまま、石田はポケットから煙草を取り出した。これから先に自分た


ちのバンドがどうなるか分からないけれど、宮原だけは自分の側にいるんだろうなと、漠


然とそう思った。


結婚しても、一人でも、年寄りになっても、例え歌えなくなっても理屈臭い宮原が隣に


いるんだろうか。そんなことを考えていると何だかおかしくなって、石田は少しだけ笑った。




END